大分地方裁判所 平成3年(ワ)580号 判決 1992年10月29日
原告
小野直美
被告
雨森光
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して金一三一万九五三九円及びうち金一一九万九五三九円に対する平成三年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は四分し、その三を原告の、その余を被告らの負担とする。
四 第一項は、仮に執行することができる。ただし、被告らが共同して金六〇万円の担保を供するときは、仮執行を免れることができる。
事実及び理由
一 原告の請求
被告らは、原告に対し、連帯して金五四〇万五七五八円及びうち金四九〇万五七五八円に対する平成三年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 争いない事実
1 交通事故の発生
日時 平成二年八月二七日午後三時一八分ごろ
場所 杵築市大字狩宿二五〇九番地の二二 西井商店先県道上
加害車両 普通乗用車(足立四六も一六三三)
右運転者 被告雨森
被害車両 普通乗用車(大分五五の三三五〇)
右運転者 原告
事故態様 右場所において、被害車両が、先行車の停止に伴い、減速、徐行して停止した直後、加害車両に追突された。
2 責任原因
被告雨森は、加害車両を運転するに際し、前方不注視の過失で本件事故を発生させ(民法七〇九条)、被告会社は、同車両の保有者である(自賠法三条)。
三 争点(損害と因果関係)に関する原告の主張
1 治療期間
原告は、本件事故により、頚部挫傷、胸部背部挫傷、外傷性頚部症候群の傷害を受け、その治療のため、平成二年八月二七日衛藤医院(杵築市所在)に通院し、同月二八日から同年一一月一一日まで七六日間宇都宮病院(大分市所在)に入院し、翌一二日から症状固定の診断を受けた平成三年九月一二日まで同病院に通院した。
2 入通院雑費 一一万四〇〇〇円
原告の右入通院期間の雑費は、一一万四〇〇〇円である。
3 休業損害 三八三万六一〇〇円
本件事故当時の原告の日収は一万〇〇九五円(年額三六八万四七〇〇円)であるところ、原告が、右症状固定時の平成三年九月一二日まで三八〇日間、就労できなかつた間の損害は三八三万六一〇〇円である。
4 後遺症による逸失利益 一三七万八八六五円
原告は、本件事故による後遺症を自賠法施行令別表(第二条関係)第一四級該当と認定されたが、労働能力喪失率は、症状固定後一年間は三〇パーセント、その後二年間は五パーセントであるから、後遺症による逸失利益の合計は、一三七万八八六五円である。
5 慰謝料 二八〇万円
6 てん補分 三一六万三五三〇円
7 弁護士費用 五〇万円
8 本訴請求は、未てん補損害額五四六万五四三五円の一部請求である。
四 争点に関する被告らの主張
原告の長期入通院は、バセドー氏病に起因し、原告主張の全部が本件事故と相当因果関係があるわけではない。
五 証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録目録記載のとおり。
六 争点に関する当裁判所の判断
1 治療期間と因果関係
証拠(甲二、三、乙三の一~九、乙四の一~一五四、乙五の一~四四、乙六の一~六六、原告)によれば、以下の事実が認められる。
原告(昭和四三年八月七日生)は、争点1に関する原告の主張どおりの治療のため、入通院(入院七六日、通院実日数五三日)を経た。原告には、本件事故後の宇都宮病院での頚部レントゲン写真上、異常は認められなかつたが(乙四の六五、六八)、既応症もなかつた(乙四の六三)。原告は、宇都宮病院での右入院期間中、後頭部痛、頚部痛、背部痛等の治療を受けたにもかかわらず同症状が悪化したため、平成二年一〇月二日、アルメイダ病院でMRI(磁気共鳴映像法)検査を受けたが、頚部に異常は認められず(乙四の八四)、同年一一月一一日宇都宮病院を退院し、翌一二日から、通院に切り換えた。原告は、同月三〇日、同病院医師には、就労が不能であると述べていた(乙四の八六)。
なお、原告は、同病院に入院直後ころより眼痛を訴え、同年九月末ころ、発汗、口渇、動悸、イライラ、食欲亢進(入院時の体重五五キログラムが六三キログラムに増加)が認められことから、同病院医師から甲状腺に異常があるかもしれないとの指摘を受け(乙六の二四)、一一月ころには、原告も甲状腺の腫張を自覚し(乙六の三、五、一〇、一六)、同医師の紹介を受けて、同月二二日、大分医科大学付属病院内科を受診した結果、バセドー氏病(グレーブス病、甲状腺機能亢進症)と診断され、同年一二月一九日から平成三年一月一二日まで二五日間、精査加療のため同付属病院内科に入院し、その間、同病院整形外科で外傷性頚部症候群の治療を受け、同病院眼科で眼痛の治療を受けた。
原告は、同付属病院を退院後、本件事故による受傷の治療を継続するため、宇都宮病院に通院を再開したが、その主訴は、同病院に入院期間中とほぼ同様の後頭部痛、頚部痛、背部痛等であつた。同病院医師は、同年四月二日、原告の主訴が、本件事故の賠償問題がからんでいるのではないかとの疑いを持ち(乙四の一一五)、同月三日、右付属病院整形外科で検査を受けさせたが、他覚的には、頚椎に病変は認められず(乙四の一一九、乙五の二六)、同月四日、永富脳神経外科病院の診断を受けさせたが、検査結果は正常であつた(乙四の一一五)。
宇都宮病院医師は、同年九月一二日まで原告の治療を継続し、同日、原告に、後頭部痛、左頚部痛、時々眼痛及び背部痛の自覚症状がある、他覚的症状として、圧痛が左側項部(第四、五頚椎の左側)と両肩部に認められる、後頭部痛、左頚部痛は常に自発痛として残つている等として、これらの症状は固定したと判断し、治療を打ち切つた(甲三)。
右事実によれば、衛藤病院での通院(一日)、宇都宮病院での入院期間七六日、通院期間(三〇五日、うち実日数五二日)は、本件事故と相当因果関係があるものと認められる。乙七も右認定を左右しない。
2 入院雑費 九万一二〇〇円
右1認定の事実によれば、原告の右入院期間七六日の雑費は、一日当たり一二〇〇円の合計九万一二〇〇円と認められる。
原告は、右通院期間中の雑費も請求するが、これを認めるに足りる証拠はない。
3 休業損害 二一五万五八七〇円
右1認定の事実と証拠(原告)によれば、原告は、中学卒業後、大分県理容専門学校(修業年限一年)を終了し、本件事故当時(平成二年八月二七日)、クラブホステスとして、月二〇日ないし二五日稼働していたが、本件事故による治療のため、前記症状固定日の平成三年九月一二日までのうち、原告主張の三八〇日間(バセドー氏病による入院二五日を含む。)ホステスとして稼働できず、その間収入を得ていなかつたと認められる。
そして、乙七(前東京都監察医務院副院長、順天堂大学医学部講師、江東病院臨床病理科医長、医学博士乾道夫作成の平成四年七月二八日付け意見書)において、乾道夫医師が、原告主張の病態を、いわゆる鞭打損傷によるものであることを承認しながら、治療が難治性、遷延性に経過しているのは、心因性因子や他疾患の関与が示唆されるところ、バセドー氏病と本件事故との間に相当因果関係があるとは考えられないと述べていることを合わせ考慮すれば、原告が稼働できなかつたことにバセドー氏病が関与していたものと認められ、その割合は一五パーセントとみるのが相当である。
ところで、原告は、本件事故当時の日収は一万〇〇九五円(年額三六八万四七〇〇円)であつたと主張し、証拠(甲四、原告)も、同主張に沿うものであるが、いずれも採用できず、他に同主張を認めるに足りる証拠はない。そこで、当裁判所に職務上顕著な、平成二年の賃金センサス(産業計・企業規模計・学歴計の原告と同年齢女子の平均賃金)によつて、原告の本件事故当時の年収を二四三万六二〇〇円と推認するのが相当である。
そうすると、原告の休業損害は、二一五万五八七〇円(計算は、2,436,200円÷365日×380日×(1-0.15)=2,155,870円。円未満切捨て。)となる。
4 後遺症による逸失利益 一一万五九九九円
被告らの主張によれば、被告らは、原告の後遺症が自賠法施行令別表(第二条関係)第一四級に該当することを争わない趣旨と認められる。そこで、原告の労働能力の喪失率につき、症状固定後一年間に限り五パーセントとみて、右後遺症による逸失利益の症状固定時の現価を算定すると、一一万五九九九円(計算は、2,436,200円×0.05×0.9523=115,999円)となる。
5 慰謝料 二〇〇万円
前記認定の入通院状況、後遺症の内容と程度を総合すれば、原告の慰謝料としては二〇〇万円が相当である。
6 てん補額 三一六万三五三〇円
右2ないし5の損害額合計は四三六万三〇六九円となるが、被告らの主張によれば、これらの損害費目に関し、原告が三一六万三五三〇円のてん補を受けていることは、被告らも争わない趣旨と認められるから、これを差し引くと、一一九万九五三九円となる。
7 弁護士費用 一二万円
本件事案を概観すると、弁護士費用としては一二万円が相当である。
8 結論
そうすると、原告の未てん補損害額は一三一万九五三九円となるから、本訴請求は、被告らに対し、連帯して、右金員及びこれから弁護士費用を除いた一一九万九五三九円に対する本件事故後の平成三年九月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を命じる限度で理由がある。
(裁判官 蓑田孝行)